キリムの産地と部族【アフガニスタン】

 

アフガニスタン Afghanistan

 

アフガニスタンの中心部は、ヒンドゥクーシュと呼ばれる峨々たる山脈がつらぬき、北部の草原地帯はトルクメン、ウズベック、タジィクの各共和国に、東南はパキスタン、西側はイランに接している。

 

南半分は砂漠、北半分は乾いた平原と山地で、昼夜の寒暖の差が激しく、厳しい土地に様々な民族が独自の文化をもって国をつくってきた東南部は、パシュトン族、北部一帯はトルクメン、ウズベック、タジィクの各部族、中央山地には、モンゴル系のハザラ族、東北部山中のヌーリスタン族、西南砂漠地帯のバルーチ族等で構成されている。

 

宗教は大半がスンニ派の回教徒である。この様な厳しい地形は、遊牧に適し、古来人々の生活は羊やラクダに頼る自給自足の暮らしであり、移動に便利な敷物、袋類、壁かざり、テントバンド、ラクダや馬などの動物の飾り物は、刈り取った羊や山羊の毛を使い自分たちの手で遊牧中に作り上げた。中央アジア、中近東は世界の敷物主産地で遊牧民の間ではじまり、今日まで伝統技術を維持している。大別すると獣毛を圧縮してつくるフェルト、平織りを基本としたキリム、毛あしのある結び織のカーペットにわけられる。キリムは平に織られた敷物で、野外に杭を打ち付けた水平機で織られる為、移動して歩く遊牧民の間で発達した。

 

1)技法は綴れ織が一番多く、色緯糸を模様にそって部分的に織り返してうめて行くので、表も裏も同じ模様になる。模様はモザイクの様にはめ込まれ、グラフィックな面白さが出る。
2)地織りの間に色緯糸を入れて部分的に模様を浮き出させる浮織。
3)緯紋織(ブロッケード)は、何本かの色緯糸が織巾一杯に通り、必要な色糸だけが表に浮いて模様をつくる。その為全体が分厚くなり、すわりの良い敷物、水を通さぬ袋が出来る。
4)経紋織は色糸を層にして整経し、模様は必要な経糸ひき上げて織られ、経に力のかかるテントバンド等に利用される。
5)ソマック織は、緯糸を経糸に半返ししながら織り込んで行く技法で一見刺繍の様にも見える。

 

以上の技法を使ったキリムは近年までは、カーペットの様に一般に知られる事もなく、本にも遊牧民のものと云うくらいで、研究者も少なかった。しかし、最近は室内装飾品として、その美しさが注目され、急速に需要がのび、輸出用の商品となり、デザインも注文に応じて作られる様になり、本来の姿が見えにくくなった。

 

キリムは、宝石や衣裳、テントの道具と同様にもともと部族民、村人の身分や属性を表すようなデザインが使われた。テントや家の床敷に礼拝用に又、動物の背カバーや袋として、家族の使用の為につくられた。勿論、余剰のものは財産として貯えられ、必要な時、近くの町で換金された。キリムはまた花嫁の持参品としても大切なものであった。しかし、20世紀に入り部族社会が次第に解体され遊牧民も定住化が進み、彼等は生き延びる為キリムを商品とする時、他部族のデザインや流行をとり入れる様になり、昔の様な各民族に固有な伝統的なものは少なくなった。

 

キリムのデザインは昔から守られてきた、それぞれのアニミズムやシャーマニズムの信仰や伝統をもとにしたシンボルがイスラム社会に入ってからも根強く残っていたが、歴史の推移と共に本来の意味がわからなくなったものが多い。

中近東のはずれのアフガニスタンは一番最後まで続いた部族国家であり、厳しい地形を反映し、他の中近東のキリムには見られない力強くて丈夫なキリムの原型をとどめるものが残されている。模様は織り技法から自然に生まれた単純で直線的、大胆なものが多い。色彩も化学染料の使用は最近の事で、天然染料の限られた色を上手に生かしている。恐らく街で染料を求めるより、遊牧中に集めた材料で染めた方が手軽であったに違いない。以下アフガニスタンのキリムの産地と、その特徴をのべる。

 

 

バルーチ Balouch

 

バルーチ族はイラン東部、アフガニスタン西部のヘラートからパキスタンの南まで寒暖の厳しい不毛の砂漠や丘陵地帯に住む。環境の厳しさに堪える地厚で密度の高い立派な織りが女性の手で作られた。色彩はこの地でとれる藍、暗赤(茜)、黒(野生のピスタチオの葉)、黄(サフラワーの花、玉ねぎ)、オレンジ(梅の木の皮、草の根)に羊毛、山羊毛の自然の焦茶、グレー、アクセントに白が使われ、全体的に暗い、地味な色彩である、袋物(ドンキーバックや塩袋)や敷物は砂塵や水を通さない様に浮き織、緯紋織を使い分厚く織られ、模様は生命の樹、星型を散らしたもの、ダイヤ型、ジ ジグザグ等の連続文が見られ房飾りも立派で白いビーズや貝がつけられる。

 

 

ラビジャール Labijar

 

ラビジャールはマイマナの北にある村々でここのキリムは、重さや密度は、マイマナのものに似ているが、模様は大柄で深い赤や藍の連続方形のパネル模様(中央にはS字や双頭の矢印があり、ウズベックのコピーと思われる)三角の樹木模様等、色の対比が鮮やかで大きな敷物が多い。

 

 

 

 

NAVIGATOR’S PROFILE

堀 田 隆 子
共立女子大学文芸部卒。出版ディレクター。芸術関係の出版社で長年にわたり、雑誌・単行本の編集に携わる一方、同出版社の「グッドアース ギャラリー」(キリムやアジアの布を扱う)運営にも係わっている。共著に日本初のキリムの本『キリムのある部屋』や『ペルシャ絨毯図鑑』、『ギャッベ・アート イラン遊牧民カシュガイ族の手織絨毯』などがある。(共にアートダイジェスト刊)